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研究/レポート

 日本におけるFMC(Fixed Mobile Convergence)の行方を占う

第2回:海外先進事例のご紹介

 Arthur D. Little ジャパン

 TIME(Telecom/IT/Media/Electronics) Pracice 松岡良和(まつおか・よしかず)

 
前回、本稿の中で議論を進めていくFMC(Fixed Mobile Convergence:有線無線統合サービス)に関する定義を行った。今後日本国内で登場するサービスが、もし“FMC”という形容詞を冠するのであれば、最低限@F(有線)とM(無線)の世界が隔絶されていることによって偏りや重複が発生しているサービス領域の拡充・効率化、AFとMの世界が隔絶されていることによって実現されていないサービスの開発、以上2点のうちどちらかの条件を満たすことが求められるというのが、本稿における持論である。
第2回目の連載である今回は、前述の条件を満たしていると考えられる海外の先進事例を2点紹介し、簡単な成功要因の分析を行うこととする。
    

1. BCP(Biz Common Platform)サービス:韓国SKテレコム

 本サービスは、2004年5月からSKテレコムによって提供されている法人向けモバイルソリューションサービスであり、諸外国においては、モバイル事業者が提供しているFMC関連サービスの成功事例として認識されている。従来SKテレコムは、コンシューマー市場を最重要視した事業戦略を展開しており、魅力的なサービス開発を積極的に推進してきたが、近年はコンシューマー市場の成熟化に対する打ち手として、法人マーケットを新規市場として捉え、このBCPサービスを中核に据えたソリューション展開に力を注いでいる。

  

1-1. サービス概要

 ERP、CRM、SFAといった多様な業務アプリケーション(情報システム)を運用している企業に対して、社内LANに接続されたPCだけでなく、屋外(モバイル環境下)での利用を念頭において、携帯電話やスマートフォン、PDA等の多様な端末で利用できる機能をASP方式で提供するサービス。
 従来のERPベンダー等が提供していた「付加サービス」としてのモバイルソリューションは、元々オフィスや工場での利用形態を無理やりにモバイル化を図った「無用の長物」の感が拭えないサービスであったが、SKテレコムが推進する本サービスは、モバイル環境下におけるビジネスプロセスのベストプラクティスをSKテレコム自らが考案し、既存の情報システムと効果的に連携させることによって業務の生産性を飛躍的に高めることを目的としている。同サービスを採用した企業の具体的な事業面での効果がマーケットサイドに評価され、高い支持の獲得に成功している。

   

1-2. 特長 

* スマートフォン、PDAフォン、携帯電話等、多様な端末での利用が可能
* 各企業が採用している情報システムの多様性が考慮されており、採用パッケージ、データベースエンジン、アーキテクチュアー等の違いをSKテレコムのBCPサービスのプラットフォームが吸収して、効果的且つ効率的な連動を可能にしている(図)
 註)従来、ERPやCRMソリューション系の情報システムを活用している企業が、さらに工夫をこらしてNotesや位置情報等の仕組みと連動させてより効果的・効率的な業務オペレーションを実現しようとした場合、異なるアプリケーション・情報システムを連携させることとなり、膨大な開発費が必要となる。SKテレコムが提供しているBCPサービスのプラットフォーム機能は、そういった業務アプリケーションの違いを比較的容易に吸収する仕組みを具備している。e-mailやLBSとの連動といった機能、サービスは、モバイルの強みが如実に発揮されるサービス領域であるため、このあたりのサポート・機能提供も彼らの売りとなっている。
* SKテレコムが提供するSMS、E-MAIL、LBS等とも連動することができ、各企業が技術面、予算面の理由からこれまで自前で構築することができなかった業務オペレーションを確立することが可能
* モバイル環境下特有の業務プロセスノウハウをモバイルワークフローとして提供
* 初期導入期間が非常に短い(通常1〜2ヶ月程度)  等

 

図:Mobile Office Solution「BCP (Biz. Common Platform)」サービスイメージ
     

SKT提供の法人向けFMCサービス。企業の個別要求にオーダーメイドで対応するASPプラットフォームサービス。

  

1-3. FMCとしての意味合い

 本サービスの特筆すべき点は、以下の2点に集約される。
(1) 新しい価値の提供
 説明が重複となるが、BCPサービスはこれまで充分なサービス、機能が提供されてこなかったモバイル環境下での情報システム活用の側面で決定的な価値提供を行っている。
従来のパッケージベンダー等は、自らが提供する情報システム機能の本質にメスを入れることなしに、「モバイル化」という側面にだけ着目し、オフィス内で活用することを前提に設計されている情報システムを無理やりモバイル化する方向に走ったため、マーケットサイドの支持を得ることができなかった。
一方、SKテレコムは、これまで確立されていなかったモバイル環境下でのビジネスプロセスのベストプラクティスを自ら考案することにより、屋外で情報システムを活用する意味合いを作り出すことに成功している。「目的」と「手段」の関係で捉えてみると、至極真っ当に「目的(=新しい価値)」を生み出したアプローチと言える。
(2) 実質的なFMC環境の実現
 SKテレコム自身は、モバイル専業キャリアであるものの、Fの分野に直接的な手をださずに、その隣接する世界でMならではの価値を生み出すことにより、ユーザーサイドに対して実質的なFMC環境を提供することに成功している。
自らが得意とするMの分野において新しい価値を提供するスタンスをとっているため、Fサイドとせめぎ合いから料金競争を引き起こすような事態を回避している点に、学びのポイントがあると考えられる。

 

2. Orb:米国Orb Networks社

 本サービスは、2004年11月からOrb Networks社によって提供されているマルチメディアコンテンツのストリーミングサービスであり、通信事業者以外のプレイヤーが実現しているFMC関連サービスとして位置付けられる。映像、音楽に関する著作権の考え方が国によって異なるため、ここでは同サービスの日本での展開の可否は一旦度外視して、サービス及びビジネスモデルの有用性のみに着目していく。

 

2-1. サービス概要

 ユーザー個人のPC内にあるビデオ、テレビ、イメージ、音楽等のマルチメディアコンテンツのストリーミング配信を行い、インターネットに接続されるあらゆる端末(PC、PDA、携帯電話等)での利用を可能にするソフトウエアの提供を行っている。マルチメディアコンテンツが収納されているPC用ソフトウエア「Orb Media」を各自がインストールし、インタ−ネットに接続された状態で「Orb Media」を起動した状態におくと、Orb社内のストリーミングサーバーと連携することが可能となり、携帯電話等からコンテンツのリクエストを行うと、そのリクエストを行った端末でコンテンツを楽しむことが可能となる。

 従来は、定額料金を毎月ユーザーに課金するビジネスモデルを採用していたが、2005年3月より、ユーザーの利用料を無料化するかわりに、提携関係にあるISPやコンテンツプロバイダーから収入を獲得するモデルへと方針転換を図っている。 

 

2-2. 具体的なサービスメニュー 

* Orb TV:テレビ放送のストリーミング゙配信、リモート録画

* Orb Photo:携帯電話を利用しての静止画のアップロード、ダウンロード

* Orb Audio:MP3ファイルのストリーミング゙配信

* Orb Video:ビデオファイルのストリーミング゙配信

* Orb Adds-on:気象情報、株価、マップサービス等の提供

 

2-3. FMCとしての意味合い 

 本サービスの特筆すべき点は、以下の2点に集約される。 (1) F/Mそれぞれの強みを活かしたFMCサービスの実現先のSKテレコムの事例では、Mならではの価値をFの世界に隣接させる形で実現することによって成功をおさめたが、本サービスでは、Fが有する絶対的な強みである「高速性(大容量通信)」とMが有する「モビリティ」、「リアルタイム性」が融合されて実現したサービスといえる。ユーザーサイドへの訴求価値という点においては、物理的なネットワークの融合以上の利便性を提供していると考えられる。 (2) 非キャリアによるFMCサービスの提供本サービスは、ユーザーサイドに対して真のFMC環境・サービスを提供していくうえで、必ずしも物理的なネットワークを所有する必要が無いことを証明している。通信事業者がFMCを語る場合、ユーザーサイドの利便性やニーズを度外視した技術論やF/Mそれぞれの立場のイニシアティブ、せめぎ合い論に終始しがちであるが、インフラとしてのネットワークに対するそもそもの依存度が低いOrb社のようなプレイヤーがサービス開発を行うと、マーケットサイドの潜在的なニーズを正しく捉え、インフラではなく提供価値のあり方で答えを出していくことが可能となる。

 

 今回ご紹介したような先行サービス例は数多く存在するため、折を見てまたご紹介していくことにしていきたい。

  

 

(まつおか・よしかず)