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研究/レポート

次世代ネットワーク(NGN)の標準化動向-1

ITU-TのFGNGN完了報告

日本電信電話株式会社 サービスインテグレーション基盤研究所
工学博士 今中秀郎(いまなか・ひでお)

 
通信事業者の生き残りをかけて、世界的にIPベースの次世代ネットワーク(NGN)が注目されている。これに対応するために、国際標準化の場であるITU-TでNGNの標準化検討に特化した活動グループとしてFGNGNが2004年に発足し、2005年11月でその活動が終結した。
本稿では、1年半に渡るFGNGNの活動と成果を中心にNGN標準化検討状況を概説する。

 

1.はじめに

 近年、日本では光アクセスによる100Mbpsが普及し、家庭でも一般的に利用できるようになり、ネットサーフィンやメールだけでなくビデオオンデマンド(VoD: Video on Demand)やIP電話など様々なIPベースのサービスを安価に受けられるようになった。この傾向は世界的に見られ、各国でブロードバンド環境が徐々に普及しつつある状況である。一方、電気通信事業者は、低価格の常時接続環境が普及したことで収入が減少し、各国の通信事業者は設備コストや運用コストの削減が共通の目標になっている。また、現在、既存の電話設備の老朽化が進んでいるため、早急に新しい通信設備の導入が必要な通信事業者も少なくない。
 そこで、全ての通信設備をIP化し、音声、データ、画像を同一の網設備を用いるフルIP化や、比較的新しい通信設備である移動体用の設備を固定網に適用する固定・移動融合(FMC: Fixed Mobile Convergence)の議論が活発化している。その具体化が、次世代ネットワーク(NGN: Next-Generation Network)である。
 NGNの標準化は、ITU-TのFGNGN (Focus Grope on NGN)をはじめとして欧州や米国の標準化団体で検討が進められている。NGNの標準化は市場の緊急な要求に応えるため、さし迫った要件をタイムリーに標準化できるリリースアプローチを取っており、各標準化団体で2005年末までにNGNリリース1が完成した。
 本稿では、ITU-TのFGNGNでのNGNリリース1の標準化検討状況を概説する。また、NGNリリース1の主な特徴として移動体網のIPマルチメディアサービス提供機能であるIP Multimedia Subsystem (IMS)の利用と、QoS保証を実現するための機能アーキテクチャについても検討状況を示す。

 

2.FGNGNでの検討体制

 FGNGNは7つの作業部会(WG)で構成され、サービス要求条件、機能アーキテクチャ、QoS、信号、セキュリティ、網移行、次世代パケット網に関するNGN標準化を検討してきた。2004年6月から2005年11月まで9回の会合を開催し、延べ1200名以上が参加しており、18の勧告草案文書を完成させた。NGNという大きなテーマを扱ったこともあり、1年半の期間では要求条件、機能アーキテクチャの検討に終始し、QoS制御や信号だけでなくセキュリティに関する技術的な検討もSG13での継続検討となった。

 

3.NGNリリース1のサービス要求条件

3.1 NGNの定義と特徴

 ITU-TでのNGNの標準化検討は、2003年から開始され2004年にはY.2001でNGNが定義され、Y.2011でNGNの参照モデルが定義された。NGNの定義における主なポイントは、「QoS制御可能」、「パケットベースのネットワーク」、「サービスと転送の分離」である。NGNリリース1での 規定内容は、QoS制御可能なIP網をベースに様々なマルチメディアサービスを提供し、固定だけでなく移動体にも対応するネットワークである。NGNは、転送とサービスが層(ストラタム)で分離されたモデルであり、これにより転送系の技術に依存しないサービスを提供することができ、それぞれのストラタム毎に別々に技術革新が可能となる。インターネットと比較して、装置を柔軟に配置できるなどネットワークの多様な発展形態をサポートできるようになっている。 

3.2 NGNリリース1の範囲

 NGNリリース1は、移動体ネットワークで用いられているIMSによりマルチメディアサービスを提供することを基本としている。IMSは、SIPサーバ群で構成されるセッション型マルチメディア通信機能である。この他に、PSTN/ISDNエミュレーション機能が定義され、既存の電話網をNGNに置き換えることを可能としている。一方、転送層ではアクセス網とコア網だけでなく、QoS制御を実現するリソース受付制御機能や、IPアドレスの割り当てや認証を行う機能が定義されている。図1は、 NGNリリース1のネットワーク概観図である。

 

図1.NGNリリース1のネットワーク概観図

 

 

3.3 サービス要求条件

 NGNリリース1では、マルチメディアサービス、PSTN/ISDNエミュレーションサービス、PSTN/ISDNシミュレーションサービス、インターネットアクセス、公共サービスなどを提供する。ここで、マルチメディアサービスには、TV電話やメッセージサービス等が、PSTN/ISDNエミュレーションでは既存電話網と同等なサービスが、PSTN/ISDNシミュレーションではIPのセッション制御機能で提供される既存電話サービスに似たサービスが含まれる。
 これらのサービスを提供するため、NGNに要求される能力として、@セッションの設定解放機能、A加入者情報の管理機能、Bプレゼンス管理などのサービス提供機能、Cリソース制御機能、Dロケーション管理機能等が必要となる。 

 

4.NWアーキテクチャの概要

4.1 NGNの機能アーキテクチャ

 NGNの標準化検討では、前述の要求条件を満足するための基本機能単位から成るNWアーキテクチャのモデルを規定した。前述の要求条件のうち、@からBまではサービスストラタムで、CとDは転送ストラタムで実現する。特に@のセッション設定解除機能は、IMSの機能を効果的に 使って実現することを考慮して基本機能単位が規定された。また、PSTN/ISDNエミュレーションは、IMSだけでなくコールサーバ型でも実現できるよう検討が進められている。

4.2 IMSによるNGNの実現

 NGNリリース1の核となるIPマルチメディアコンポーネントは、3GPPで検討されているIMSを流用する。IMSは、IP網上で呼処理のためのセッション制御を行う機能群であり、複数のSIPサーバ群で構成される。IMSでは端末の種類に拠らず、IP 網上でアプリケーションと連携した認証や通信相手の発見機能 を有する。また、外部アプリケーションと連携して、様々な付加サービスが実現可能である。

4.3 QoS保証実現のために機能アーキテクチャ

 Webブラウジングやメールのようなデータ通信では、伝送品質が通信中に劣化してもパケットの再送等により問題が回避できるが、電話や映像配信のようなリアルタイム性が要求されるサービスではパケット損時の再送の時間的余裕は無く、通信品質の確保が必須になる。そこでNGNでは、通信品質の確保のためにQoS制御機能を、リソース受付制御機能(Resource Admission Control Function: RACF)により実現する。図2にRACFの概念図を示す。RACFは、セッション設定要求毎にリソースの空き状態を考慮して設定可否を判断する機能を有し、NATやファイアーウォールの機能も実現する。FGNGNでは、RACFのアーキテクチャ検討に時間を要したため、会期中に勧告草案の完成に至らずSG13での議論に持ち越された。

 

図2.RACFとは(TR-RACFの規定) 

 

 

5.あとがき

 FGNGNでのNGN標準化検討は2005年11月に終結し、完成・未完成を含めFGNGNの成果物の全てが親SGであるSG13に送られた。今後は、SG13を中心として関連するSGで検討を継続するが、この検討体制にNGN-GSI (NGN Global Standards Initiative)という名称を2006年から冠する。今後、QoS制御機能の規定や信号レベルの規定がNGN標準化活動の争点となる見込みである。また、セキュリティなどのリリース1の残課題だけでなく、NGNリリース2に向けた新たなサービスの検討が開始される予定である。日本のブロードバンド環境の先駆的な経験を活かし、日本の技術や経験をNGNの国際標準化に盛り込むため、今後もより積極的に貢献する必要がある。

 

(いまなか・ひでお)