FMCでは自宅や職場の無線LAN、あるいは公衆無線LANと携帯電話網の間で、シームレスな通信を実現する必要がある。その重要な技術要素が端末に実装されるミドルウェアだ。本講演ではフラクタリストの奥瀬俊哉事業部長が、FMC向け端末のミドルウェアに求められる諸条件を明らかにする。
通信サービスを利用するライフスタイルやビジネススタイルは激変している。背景にはインターネットのブロードバンド展開、携帯電話の3G化や新規参入、公衆無線通信の登場がある。
今日では、P2P、NAT Traversal、SIP、IMS、Wi-Fiといったインフラの整備とサービスモデルの確立が、市場を加速する主因となっている。
シームレス通信を妨げるインターネット上の課題
フラクタリストは2005年8月、「NomadicNode」と呼ぶネットワークソリューションの提供を開始した。インターネットのさまざまな通信課題を解決し、遊牧民のようにいつ、どこからでも、インターネットを介して機器間を接続可能とするのが目的である。
周知の通りインターネット環境は、世界共通のプロトコルで成り立っている。だが、実際の端末同士の間には、多種多様な通信インフラと接続形態が横たわっている。ADSL、FTTH、CATV、公衆無線通信網などだ。
さらに回線自体の品質や機器の品質、1ユーザー当りの帯域といった制約条件もある。端末間の通信環境は、エンドユーザーにもサービス提供者にも把握できないほど複雑化している。
こうしたベストエフォート型回線を前提に高品質なIPサービスを提供することが、NomadicNode事業のテーマである。具体的には、対象となるネットワークの構成を分析し、必要な通信ミドルウェアをモジュール化して、IP端末や情報家電に組み込むことで対処する。
通信環境の変化は、今も継続して起きている。例えば、各地で展開され始めた公衆無線LANサービスは当初、PCからの利用のみを想定していた。だが今後は、爆発的に普及する音楽プレイヤーや携帯ゲーム機のリモート連携が大きなテーマになるだろう。
従来、通信サービスと端末は「一連托生」だった。これからはマルチサービス/マルチ端末を自在に組み合わせ可能なインフラが求められる。これと並んで、端末側の要素技術のコーディネーションが重要なテーマとなる。
このコーディネーションは、JavaやSIP、NAT越え等のパーツ、OSGi等のフレームワーク、Webブラウザなどのビューワ、認証・課金機能といった要素を、マルチ端末で利用できるモジュールの形にすることで具現化される。
これにより、新たなブロードバンドサービスが手軽に構築できるようになる。そしてこのモジュール化が、マルチユーザーによる真のモバイルIP端末の利用を実現するのだ。
NomadicNodeが実現するソリューション事例
NomadicNodeは単なるコンセプトでも、技術体系で終わるものでもない。フラクタリストでは具体例なソリューションをいくつも提案している。
モバイルIP端末間のP2P通信
図1のソリューションの中で開発される端末は、Wi-Fiのアクセスポイント(AP)からインターネットへ接続するものだ。こうした用途の端末開発プラットフォームとして、「NomadicNode Comm Module」がある。
これはTCP/IPスタックの上位で動作するTCP/IPラッパー通信ライブラリで、NomadicNodeサーバーとともに動作する。多様な接続形態のネットワークを自動分析して、P2P通信を実現する。NAT越えやファイアウォール越えの機能を搭載し、プライベートIPアドレスのみを持つ端末同士間でもインターネット経由のダイレクト通信を実現。プッシュトゥトーク機能も標準で実装する。
多くの公衆無線LANサービスでは、それぞれプライベートIPアドレスを端末に配布している。NomadicNode Comm Moduleを使えば、異なるネットワークに接続する端末同士の間で、P2P型の音声通話が可能となる。
フラクタリストでは本スタックの開発およびSIPスタックとの結合試作を、2004年に実施した。本ソリューションはその成果を元に、アプリケーション構築を行うものとなる。
図1:モバイルIP端末間のP2P通信
IP端末との通信
「NomadicNode Router」は、NomadicNode Comm Moduleをコアに、オーバーレイネットワークを構築するソフトウェア。VPNソリューションと同様のレイヤ2トンネリングを実現する。小型専用ハードに組み込み、端末や情報家電とブロードバンドルーター等の間に設置することができる。
NomadicNode Routerは、本モジュールに接続された機器同士に対し、同一ネットワークエリア内で各種IPアプリケーションを利用しているかのようにエミュレートする。さらに、Nomadic-Node Comm Moduleを利用しているため、プライベートIPアドレスの端末同士でLANを構成できる。これにより、SIPをはじめNAT越えができないアプリケーションも動作可能になる。
これを使えば、特定のLAN内にインターネット経由でモバイルIP端末を参加させることができる。しかもアプリケーションを変更することなく、既存のIP端末にインターネットで接続できる。ネットワークカメラによる監視、ビデオサーバーの映像再生、PC接続など、ユビキタス時代のビューワデバイスやリモコンデバイスを実現する。
事務所内端末との通話
フラクタリストでは「NomadicNode Router」と呼ぶソフトウェアを搭載したIP-PBXも開発している。これを使えば、VPNのように社内ネットワーク
|

図2:「NomadicNode Comm Module」とSIPによるP2P通信 |
に参加し、IP-PBX配下のSIP端末と通話できる。いわゆる「モバイルセントレックスサービス」も提供可能だ。
NomadicNodeが提供する解決技術と実現方法
以上の技術を応用すれば、今日のインターネットの多様な通信課題を解決できる。次にそのいくつかを紹介する。
@SIPベースのP2P通話
NomadicNode Comm ModuleをSIPと組み合わせれば、プライベートIPアドレスを持つ端末同士が、インターネットを介してSIPベースの音声通話を実現できる(図2)。なお、SIPによる音声通信については、OMAが定義する「Push-to-Talk over Cellular(PoC)」準拠の実装設計を目指している。
AVLANの構築
「NomadicNode Virtual Interface(NNVI)」を使えば、NomadicNode Routerに接続された端末との間でVLANを構築できる。ユーザーはLAN内にいるのと同じ操作感覚で、インターネット越しにIP端末に接続できる。これは完全なL2トンネリング技術なので、SIPのようにIPアドレスをプロトコル内に含むアプリケーションも、改変することなく適用できる。
BWi-Fiドライバと管理アプリ
Wi-Fiチップセットには、最大手アセロスコミュニケーションズ社の製品を利用し、同社のWi-Fiドライバを移植して使う。
Wi-Fiでは端末がAP間を移動するため、接続方法が難しい。加えて、昨今では各社の公衆無線LANサービスが乱立。しかも接続方法が1社1社異なる。
そこでアセロス社の協力のもと、Wi-Fi接続の課題を洗い出し、Wi-Fi管理アプリケーションの試作と実証実験を実施している。これは各種の公衆無線LANに簡単に接続し、端末移動時に無線APを再検出するソフトだ。
CJavaVMとOSGiフレームワーク
NomadicNodeプラットフォームでは事業者のサービス開発を容易にするため、JavaVMを移植する。JavaVMの上では、OSGiフレームワークの適用を検討している。インターネットを介した機器連携の国際標準規格として策定が進められているものだ。本ソリューションではOSGiフレームワークの端末搭載方法を検討し試作を行う(図3)。
また、JavaVMおよびOSGiフレームワークの搭載と併せ、アプリケーション開発環境の提供も目指している。モバイルIP端末向けサービスの構築を効率化するためだ。
図3:モバイルIP端末による機器連携

モバイルIP端末が開く新たなサービスの可能性
IP端末やVoIP対応の電話機は、市場の拡大が見込まれながら、なかなかブレイクしない。今回のモバイルIP端末開発の完成成果物は、その突破口となるだろう。さらに「ユビキタス対応に必要な要素」として、業界に大きく貢献することを確約する。
携帯電話市場では、キャリア主導でユーザーの利便性を考慮し、画面遷移やヒューマンインターフェースの改善を重ね、これが市場の急成長に結びついた。家電製品の例では、リモコンの定着がテレビの操作を容易にした。
今後、通信事業者各社は、光ネットワーク、公衆無線通信、ブロードバンドを活用する新サービスの開発に取り組んでいく。その際、取り分け端末の画面遷移については、携帯電話以上に利用者の個性尊重が大切になる。
無線接続が常識となる次世代端末の画面遷移を前提として、当該無線通信のコンディションに応じ、どういったレベルのサービスが利用できるか。また、その期間をいつまで継続できるか。これらを推測する仕組みの共通化を、フラクタリストでは具現化している。
このビションが実現されれば、ISPや公衆無線LANの会員ユーザーは、サービスゾーンの中に立っていなくても、他の無線インフラを容易にローミングできるようになる。
ただし現状では、端末側の認証システムが各社異なる。PCクラスの製品ならともかく、これに対応する仕組みをすべて、モバイルIP端末に搭載するのは無理がある。
話題先行のIPセントレックスにはまだまだ課題が山積している。Nomadic Nodeはそれを明確にする手段となりうるソリューションである。
奥瀬俊哉 Toshiya Okuse
株式会社フラクタリスト
NomadicNode事業部 取締役 事業部長
http://www.fractalist.jp/