「NGNではMPLSがコア技術になる」−−AT&T研究所のトム・シラクーサ氏はこう話す。「次世代ネットワーク&サービスConference2006」で基調講演した同氏に単独インタビューし、AT&Tの実際の取り組みを交えながら、NGNの技術戦略を聞いた。
MPLSがNGNの中核技術になる
世界の通信事業者のネットワークがNGNへ変わる中で、一番強く感じていることは何か。
私はMPLS(Multi-Protocol Label Switching)がNGNのコア技術になると見ている。RFC2547では自営VPN網の要素技術のひとつに位置づけられているが、オールIP化の進展に伴い、あらゆるネットワークエッジとバックボーンをつなぐ役割を担うようになるだろう。
多様化するアクセスを、コアネットワークに統合する役割だと。
そうだ。エッジはIPv6でサービスされるが、コアはMPLSで統合される。
世界の通信事業者の最大のテーマは「コンバージェンス」になった。音声・動画・データ、固定網と移動網、その上のアプリケーションをいかに融合するかが課題だ。その方法としてAT&Tでは、4つの顧客視点を提唱している(図)。
@移動と固定を含むアクセスの融合、AIP上での各種融合サービスの提供、BMPLS-VPNによる企業ネットワークの統合、C企業のアプリケーションインフラを最適化し、生産性や効率を高めることである。
NGNへ向けたAT&Tのフレームワーク

そうした統合環境には、どのように移行させていくのか。
@について、バックボーンはインターネットとMPLSベースの統合化IP網の2つに集約される。アクセス系はユーザーの居場所に応じて、有線と無線、公衆網と自営網、IP網と非IP網の中から最もコスト効率の高い手段が選択可能になる。われわれが特に注目しているのはWiMAXだ。WiMAXを拡張し、優先接続、バックアップ回線、災害時通信等へ適用することを検討している。
Bの企業ネットについては、インターネットVPNのIPsecと、MPLSベースのマネージドVPNは相補関係にあると捉えられてきた。一方で、「ギャランティードされたNGNがインターネットを代替する」という人もいる。NGNとインターネットの関係をどう見ているか。
多様な異種ネットワークをIPで統合するのがNGNであり、その中にVPNもインターネットも包括されると考える。立場によっては、NGNとインターネットが排他的関係に立つという見方も成り立つと思う。
そうした中でMPLSの重要性が格段に上がると。
そうだ。オールIP化に向かう網が、サービス本来の価値を顧客のために発揮するには、エンド-エンドの通信品質とセキュリティが厳格に制御される必要があるからだ。その点でMPLS-VPNは、IPsecやP2P通信とは異なるコスト効果で棲み分けることになるだろう。
課題は「クラス・オブ・サービス」の実現
FMCやCDN(Contents Delivery Network)を含むユビキタスインフラを構築する上で、MPLSには今後解決されるべき課題が何か残っているのか。
ひとつ重要なのは「クラス・オブ・サービス」つまり優先制御だ。リアルタイムの双方向VoIP通信でこれを実現する方法は、まだ充分整っていない。例えば公衆網の置き換えでは、消防署や警察署の緊急呼などの例外処理が難問だ。そうしたエンド-エンドの優先制御は、アプリケーション層で実現される。その時MPLSネットワークは、アプリケーションの違いを認知し、最適にコーディネートできなければならない。ネットワーク管理を含め、AT&Tではそのための研究開発に注力している。
アプリケーションレイヤの技術の比重が増すということか。ネットワーク管理の視点も、網のオペレーションから顧客サービスの視点へと、レイヤを上げねばならない。
そのとおり、SLAのビジネスインフラになる。例えばAT&Aでは、顧客エンドにおける実際の通信の到達度をモニタし、障害対応やネットワークフルフィルメントに反映させる「サービス・アシュアランスVPN」を提供している。ネットワーク技術の目的は、単につなぐことから、顧客のビジネスへの貢献へと変わる。それが通信事業者にとってのNGNの意味であり、先の4つの視点で強調したかったことだ。
顧客セグメントに応じた付加価値の追求は、公平性を旨とするユーティリティサービスの対極にある。そうした業態変革を進めるために、MPLSやアプリケーションレイヤの技術開発があると言い切ってよいか。
現時点の言い方としては、顧客の差別化ではなく、ある顧客1社の中で、サービス毎の優先度を制御するのがクラス・オブ・サービスだということになるだろう。例えば、音声通話とファイルのダウンロードは違う。
その説明では、QoSとの違いが判らない。
確かに。クラス・オブ・サービスは、エンド-エンドで特定のアプリケーションが特定の目的で使われているとき、その「目的に応じて制御する」という点がQoSと違う。QoSは小さな要素技術のひとつだ。
例えばAT&Tでは、世界3カ所のデータセンターを軸に、各種バックアップサービスを提供し、ユーザーのトラヒックを安全かつ効率的にオペレーションしている。これらを通じて、Cに挙げたユーザーのアプリケーションインフラを最適化するわけだ。
しかし、ストレージのバックアップやトラヒックを管理することと、Cが掲げる企業活動の生産性や効率を高めることの間には、著しい開きを感じる。間はどう埋めるのか。
そこはアプリケーション毎に考えねばならないだろう。
ひとつ言えるのは、生産性や相互運用性の問題は、セキュリティとセットで考えるべきということだ。オープンネットワークの複合的な脅威に対し、事前対応、見直しの継続、情報資源と対策の分散配置、管理の中央化等で立ち向かう必要があるが、特にAT&Tでは「階層化アプローチ」を提唱している。
そうしてインフラを最適化しながら、その上では、ユーティリティ・コンピューティング、自動化されたオンデマンド型ビジネスアプリケーション、完全互換性、中央化されたSLA管理等を追求している。顧客のアプリケーションを変え、コスト効率を高め、さらにビジネスモデルを変えることが今後のAT&Tの役割であり、自身もそのようにビジネスモデルを変える必要があると考えている。
OSS/BSSが競争力の源泉になる
「通信事業者が顧客指向・サービス指向に変わるには、ネットワークインフラやOSS/BSSや開発基盤の結びつきを強める必要がある」という意見をどう思うか。
そのとおりだと思う。顧客オーダーからプロビジョニング、メンテナンスに至るプロセス連携が不可欠だからだ。AT&Aではそうしたプロセスの自動化を「フロースルー・マネジメント」と呼んで取り組んでいる。
何か具体例を。
「ビジネスディレクト」というポータルサービスを顧客企業に提供し、米国で好評を得ている。刻々と変わるユーザーネットワークのリソース状態、障害の現状、ウィルスやDoS攻撃の事前警告といった情報を、ユーザー視点で提供するものだ。裏側ではAT&T独自のネットワーク統合管理システムが動いている。各ベンダの機器が吐き出すEMS/NMS(Elements /Network Management System)情報を集約し、顧客単位に仕分けして出力している。OSSが顧客サービスの創出と事業の競争力に結びついた好例と言えるだろう。
(聞き手:松本昭彦)