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インタビュー

NGNへの移行を視野に最新OSSを投入
効率化の次はデータとプロセスの一貫化

 

 

ドン・ギブソン

英クレーマー・システムズ最高技術責任者
Don Gibson

 
OSSアプリケーションの分野で、ネットワーク・リソース/インベントリの統合管理ソリューションを提供する英クレーマー社。3月下旬にはNGNへの移行期を睨んだ新バージョンを投入した。最新版の拡張ポイントと狙いを、創業者の一人、ドン・ギブソンCTOから聞いた。

 

3月28日に、2年ぶりのメジャーバージョンアップとなる「Cramer6 OSS Suite」が英国で発表されたが。

クレーマーはこれまでもこれからも、「統合された単一のインベントリDB」(統合リポジトリ)を中心に据えることで、OSSをシンプル、低コストかつ強力にし続ける。Cramer6では統合インベントリの周囲に、新たに3つのアプリケーションモジュールを配置したほか、既存の主要5モジュールに4つの拡張を施した。これらを旧来のOSSアプリケーションのようにバラバラに提供するのではなく、高度に統合されたスィート製品の形で提供する。これにより通信事業者は、より大規模なOSSを、より簡便に操作できるようになる。

 

Cramer5までのコアリポジトリはリプレースされるのか。それとも独立した新しいインスタンスが論理統合されるイメージか。

後者である。Cramer6はCramer5のプラットフォームをベースに、リポジトリを拡張し、アプリケーションを追加したものであり、滑らかにアップグレードできる。

 

NGNへの移行期にフォーカス

Cramer6での拡張は、特にNGN構築を意識したものか。

 そのとおりだが、それにも増して重要なのは、移行期間中の網のオペレーションである。NGNへの移行には何年もかかるし、一方でその間ずっとレガシーを維持・運用し続けねばならない。通信事業者はそのコストとリスクを担保しつつ、NGNへの移行を安全かつ速やかに推進する必要がある。

 
移行期にはどんな問題があるとギブソン氏は考えているか。

 新旧の網とシステムはアーキテクチャが全く異なる。特に大手の事業者になるほど、旧システムからのデータ移行が難問になる。NGNとそのシステムは、何もない平野に建てられるのではない。ネットワークオペレーションサービスに関連する、ありとあらゆるデータの存在が前提になる。

 
ネットワーク設備だけでなく、インベトリの履歴、顧客ごとのSLA、過去のサービスの結果、オペレーションプロセスの管理データ等を、通信事業者の情報資産として保護・移行・有効活用する仕組みが必要になるということか。

 私がNGNで強調したいのはまさにそこだ。当社にはそうした大規模なデータ移行の実績が欧州にあり、現在も新旧の網が並行運用されている。Cramer6にはそうした経験知が活かされている。

 

業務基盤から情報活用の基盤へ

データ活用の余談になるが、従来OSSは、NOC(Network Operation Center)の日々のオペレーション業務をこなすためにあった。同じく定型業務のインフラだったERPには、別途データウェアハウスや経営コックピットやBI(Business Intelligence)が追加され、結果、ERP自体の役割や存在意義も大きく広がった。OSSも同様に、情報活用を通じたサービス開発支援や経営戦略支援といった領域へ、役割を広げていくと思うか。特にCramerのアーキテクチャは、統合DBの共有を通じてプロセス間を自動連携する点で、ERPとの共通点も多いように見えるが。

 そこは「余談」などではなく、次世代OSSの本質である。(ERPがそうであったように)テーマは「データとプロセスの統合」であり、そこからシステムのビジネスに対する新たな価値と役割が生まれてくる。

 「従来はOSSがバラバラだった」と言われるとき、それは単に「ネットワークの管理システムが別々に作られていた」ことをだけを指すのではない。それぞれの上に、フルフィルメントサイクル、デリバリモデル、オペレーションモデル、プロセスデザイン、サービス、リソース/インベントリ等などが築かれてきたことを指す。

 次世代OSSは、まず直接的にはこの非効率を廃して、オペレーションコストを劇的に削減する。その次の最適化と自動化を、Cramer5では追求してきた。Cramer6はさらに、データとプロセスの統合に向けた次のステップの端緒を開くだろう。Cramerソリューションがセントライズ(中央化)される情報の範囲を拡大し続けているのは、このためである。したがってデータウェアハウスも、われわれにとっては今後の重要な取り組み課題となる。

 
OSSが徐々にサービスのバリューアップやレベニューアップの基盤になっていくということか。

 方向はそうだが、OSS自体のチェンジバリューはもう少し先になるだろう。NGNのオペレータは、新しいサービスを「月々」ではなく「日々」創出せねばならない。そのためには、効率的かつ迅速なプロビジョニング(注)とデータマネジメントが不可欠であり、OSSはNGNの効率性を担保できなければならない。但しこれは必要条件であって、充分条件ではない。ネットワークインベトリの集中管理は、事業者にとって最も緊急度の高い効率化とコスト削減を通じて、間接的に新たなサービスの創出に寄与していくことになる。

 

ディスカバリと統合型アクティベーション

では、3つの新規アプリケーションモジュールとは何か。

 ディスカバリエンジン」「アクティベーションエンジン」「サービスカタログ」である。ディスカバリエンジンは、2006年3月1日付けで吸収合併したイスラエルTSoft社の「Umbrella」がベースになっている。成熟したこの製品に、クレーマーの「シンクエンジン」と、「デリバリエンジン」が持つインプリメンテーション管理やリコンシエーション(調整・同期化)の機能を合体させた。これにより、全く新しいタイプのフルフィルメント・プラットフォームを実現した。

 ネットワーク情報を維持するためのプロセスは、2つの部分から成る。ひとつは実際の網から構成情報などを吸い上げる「アップリフト」の働きであり、現実の網の姿を示すビューを管理者に提供する。ディスカバリエンジンはこれを担当する。もうひとつがリコンシエーションで、現実の網の姿とコアリポジトリという2つのデータリソースを比較・整合して、ビューを同期化する。これは従来どおりシンクエンジンが担当する。

 Cramer5ではシンクエンジンがリコンシエーションを実現していたが、シンクエンジン自体にはアップリフトの仕組みがなかったため、EMS(Element Management System)とアダプターを介してつなぐ必要があった。Cramer6ではその必要はない。ディスカバリエンジンが直接ネットワークを自動探査して、必要な情報を取得するからだ。

 

図 「Cramer6 OSS Suite」に追加された新しいアプリケーションモジュールの位置づけ

 

 
Cramer6のアクティベーションについて、もう少し説明してほしい。

 従来、ネットワークのアクティベーションでは、2つのビューが存在していることが問題だった。網の現状を把握するための視点と、リソース/インベントリを見る視点が同期していなかったことが、オペレーションを著しく煩雑にしていたのだ。Cramer6のアクティベーションエンジンでは、この2つが統合される。この統合型アクティベーションに情報を通せば、2つのビューを整合して一貫性を維持できる。

 同期化の対象はそれだけではない。異なるネットワークはもちろん、新旧のシステム間、異なるOSS、異なるDB間の情報も、整合・同期化・一貫化され、その上で統合型アクティベーションが実行される。2つのデータ体系に代わって単一のデータ体系を使えば、網のデプロイメント(配布・有効化)を一気に効率化し迅速化できる。

 

簡素かつ強力なAPIを提供するサービスカタログ

3番目のサービスカタログとは、どういうアプリケーションか。

 BSSとインタフェースして、SAPやOracleといったERPの機能を簡単に利用可能とする。サービスカタログを使えば、単一の統合環境の下で、新旧のネットワーク上にある全てのサービスを簡潔に表現できる。例えば、事業者が新しい音声通話サービスを企画するとき、PSTNとSONETとVoIP網が地域ごとに複雑に混在していても、簡素化された抽象的な形で表現できる。そのサービスが、ネットワークのどの部分を使うものであっても判りやすく説明できる。

 
サービスカタログの外部APIの目的は、データ交換か、それとも外部の処理をCramerの中から呼び出すためか、逆に外部から呼び出されるためか。

 そこは重要だ。その全てをカバーする。当社は様々なサービス管理に技術的な解を提供したいと考えている。サービスカタログのAPIは、ネットワークとインベントリの情報を、より高次のBSSや、ビジネスレイヤのサービスメニューにつなぐものだ。APIをビジネスのレイヤに高めることによって、真のソリューションを提供したいと考えた。

 
ハイレベルAPIとのことだが、具体的にはどのような形で論理インタフェースが提供されるのか。

 バリデート(検証)、コンファーム(確立)、リザーブ(予約)、サスペンド(停止)、デリート(削除)という5つのサービス機能を提供する。BSSとのインタフェースをこの5つに集約し簡素化することで、安価で効率的な連携を可能にした。

 
その5つがネットワークインベントリのデータライフサイクルに沿ったハンドル(操作)になるということか。

 いや、ネットワークサービスのライフサイクルである。

 
Cramerはこれまで、NOC(Network Operation Center)内の各ビジネスプロセスに対し、それぞれに特化したアプリケーションビューを揃えてきた。今後はBSSや他のビジネスプロセスとの連携に、システム間の自動化された協調動作を含め、積極的に乗り出すということか。

 そうだ。Cramer5でも、BSSとのデータ交換やプロセスオートメーションを実現していたが、サービスカタログはそれを劇的に簡素化する。

 

柔軟な導入が可能

話をディスカバリに戻すが、アップリフトはEMSやNMS(Network Management System)の役割と重ならないか。

 考え方は近いが、EMS/NMSは古い交換機などに対応できない。ディスカバリエンジンは、ネットワークの全ての要素を完全にカバーする。EMSなしでも、EMSを代替することも、既存EMS/NMSを残して配下に取り込むこともできる。Cramerは極めて柔軟なフレームワーク製品なので、どのような導入の仕方も可能だ。

 
ディスカバリのDBは独立したインスタンスを持つのか。持つとすれば、ディスカバリのみの単独導入もできるのか。

 できる。ディスカバリは独自のDBとUI(User Interface)を持っているので、最初は単独で運用し、後にCramer6本体を導入した時点でUIを切り替えることもできる。

 
単独導入できAPIも完備されているとなると、他社製品やカスタムアプリケーションの足回りに接収されて、パッケージドソリューションの形が崩れる可能性はないか。

 その懸念はない。単独での機能やUIはごくシンプルなものだからだ。複雑なサービスモデルは実現できず、ビジネスプロセスを通じた修正を加えることはできない。大切なのは、顧客ごとに異なる要求水準に応じて、最大限の柔軟性を発揮することだと考えている。

 

既存モジュールには4つの機能拡張

既存アプリケーションに施された4つの機能拡張とは何か。

 「ITマネージャ」「クラス・オブ・サービスマネージャ」「ケーブルマネージャ」「パーティションマネージャ」を追加した。これらはコアインベントリを拡張するものと言ってよい。

 ITマネージャは、NGNを構成するあらゆるITのコンポーネントをプロビジョニングして、説明可能とする。NGNにはIMS(IP Multimedia Subsystems)やビデオサーバー、サーバーファーム、SAN(Storage Area Network)、アプリケーションクラスタ、個々のアプリケーションプログラム、SDP(Service Delivery Platform )等々、新しい要素が次々と入ってくる。

 
ITリソースの「可視化ツール」というわけか。他の機能拡張については?

 クラス・オブ・サービスマネージャは、全てのネットワークサービスのトラフィック・エンジニアリングを支援する。音声や動画やインターネットのサービスクラスを顧客ごとに差別化して、SLAに応じたQoSを実行・管理する。

 ケーブルマネージャの説明は簡単だ。銅線やファイバーについて、より詳細な情報を定義できるよう、テーブルの項目とビューを拡張した。

 パーティションマネージャはネットワークのビューを簡素化し、大企業の複雑なユーザーグループにも対応可能とする。

 

データマネジメントが価値を生む

Cramer6が出たばかりだが、“7”以降の方向性は?

 単一のセントラル・データリポジトリを軸に、より統合的に、より大規模に、よりシンプルに使いやすくというソリューションコンセプトは一貫して変わらない。特に固定網も移動網も世界の最先端にある日本では、Cramerの価値が発揮できると期待している。

 
確かに日本の網やコアテクは優秀だが、ギブソン氏が強調する「データマネジメント」は弱い。「NGNではデータマネジメントがビジネスを生む」と、実際の事業者組織が価値観を転換するのは容易でない。

 その点は世界中どこでも同じだが、確実に変わっていく。そのときCramerは、OSSツールを次世代のものに変えていくことになる。

 
過渡期をターゲットとした製品ではなく、Cramer7はNGN本番時代のOSSになると。

 いや、そうなるのは恐らくCramer8より先だろう。NGNへの移行がピークを迎えるのは5年先、早くても1〜2年先になるが、Cramerはその間も進化し続けるからだ。


(聞き手:松本昭彦)

 

【プロビジョニング】
provisioning:provisioning:「供給する」の現在進行形で、時に「必要」などとも訳される。通信事業においては、科学的な需要予測に基づいて予め用意されたサービスリソースを、顧客の要求に即応して、迅速にセットアップし提供するタイムトゥーマーケットのオペレーションプロセスを指す。「オンデマンド型プロセス」への転換を含意して使われる語である。