インタビュー
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オールIP化は全体最適が重要 先行するインフラが需要生む
黒澤保樹
シスコシステムズ 代表取締役社長 Yasuki Kurosawa |
「いずれ電話は無料になる」という、シスコシステムズのジョン・チェンバースCEOの予測は現実のものとなった。同社では「インフラ」「サービス」「アプリケーション」という3つのフェーズを経て、オールIP化=NGNが実現すると見ている。
大きな観点から見たとき、通信業界はいま、どのような局面に立たされていると考えていますか。
端的に言えば、IPが実現する「通信技術革命」が起きているということでしょう。かつて、当社のCEOであるジョン・チェンバースが「TELECOM99」の講演において、「5年後に電話は無料になる」と発言しました。「そんな馬鹿なことが起こるか」というのが、当時のテレコム業界の反応でした。
いまはどうでしょうか。電話はタダになりつつあるのです。この一連の技術革新の動きを見て、「IPという技術が旧来の通信システムに取って代わる」と皆が思いはじめている段階なのです。
そういう意味で、当社ではIPという技術の持つ能力や機能が相当に大きいということに気付いていました。確信を持って技術開発や標準化を進めてきたという経緯があるのです。
それが、2004年6月のBT、9月のKDDI、11月のNTT東西と主要通信キャリアがなだれを打って、ネットワークのIP化を表明するという動きにつながるわけですか。
そうです。NGNで最も大きな要素はIP化です。それが有用な手段であるということを、ようやく誰もが分かりはじめたのです。
ネットワーク全体を考える必要がある
INNというコンセプトを掲げている
では、ネットワークのIP化には、どのような意味があるのでしょうか。
オールIP化を導入するということは、単にルーターやスイッチといった機器を導入することではありません。ネットワーク全体を考えなくてはならないのです。
そこで、われわれは以前からIIN(Intelligent Information Network)というコンセプトを打ち出しています。本質的な意味でIPを導入するためのアーキテクチャです。その通信事業者、サービスプロバイダー版が「IP NGN」(IP 次世代ネットワーク)です。
ルーターの性能が上がったといったような、個々の技術的な事象に囚われてはいけません。全体を見回して、ビジネスと技術双方に関わる課題を解決する青写真を描く必要があるのです。
3つのコンバージェンスが起きている
インフラからサービス、アプリへ拡大
IINのコンセプトを説明していただけますか。
ここでは、3つのフェーズとして捉えています。「インフラのコンバージェンス(融合)」「サービスのコンバージェンス」「アプリケーションのコンバージェンス」です。
インフラという側面では、どのような融合が起きているのですか。
従来の仕組みでは、アプリケーションやサービスそれぞれに応じたネットワークが存在していました。企業のネットワークを例にとれば、電話回線とコンピューターネットワークの2つが並列しています。これが1つになります。通信事業者でいえば、ATM、フレームリレー、インターネット網と複雑なネットワークを有しているわけですが、これをIP技術を用いることで一本化しようということです。
インフラにおいて最も大事なことは信頼性。だから、われわれはここでのR&D投資に注力してきました。その結晶が「IOS XR」というOSであり、それを実装した「Cisco Carrier Routing System(CRS-1)」なのです。
2点目のサービスのコンバージェンスの示す意味を教えてください。
一番分かりやすいのが、いわゆる「ワンナンバーサービス」でしょう。固定電話と携帯電話を1台の電話機で利用できるサービスです。 FMCと言い換えると分かりやすいかも知れません。
1人のユーザーから見たとき、オフィスや外出先、自宅、自動車、電車という多様な環境のなかで、いかなるときでも通信サービスを受けられることです。さらにそのなかから最も品質が高く、最も安価で、最も高速なサービスを、ユーザーが意識することなく自動的に選択し、シームレスに提供する。こうした環境の実現を目指しているのです。
そのためには、誰が、どこで、どのネットワークを、どのように使ったかを、きちんとマネージメントできる「サービスエクスチェンジ」という機能を導入すればよいでしょう。モバイルの世界で標準化が進むIMSに近い考え方です。
一方で、IP化により共通の通信プラットフォームを皆でシェアすることになっても、高いセキュリティと信頼性を持った仕組みが求められます。これはバーチャライゼーション(仮想化)という技術で解決できます。あたかも専用線のような環境で、さまざまなサービスを享受できるようになるでしょう。
アプリケーションが融合
デバイスの境目がなくなってきた
3点目の融合ですが。
アプリケーションのコンバージェンスには、デバイスの進化が関わっています。例えば、いまわれわれの目の前にあるIP電話機は、通話機能だけでなく、液晶画面を使ったWebブラウジングやWebアプリの利用が可能です。最近の携帯電話や情報家電なども同じでしょう。デバイスの機能の境目がなくなってきているのです。ここでユーザーは、その時点で最も使いたいデバイスで、同じアプリケーションを使いたいという欲求を持ちます。それをサポートするネットワークインフラが必要とされるのです。
この3つのコンセプトが、われわれシスコシステムズにとってのNGNと呼ぶことができるでしょう。
こうした動きに呼応し、通信事業者ではビジネスモデルの転換を急いでいるように見えます。
これまでのトラフィックに応じてアクセスチャージを徴収する手法だけでは立ち行かないのは自明です。NGNという新しいプラットフォームが実現すれば、新しいサービス、新しいビジネスモデルがどんどん出てきます。
USENのマルチメディアサービス「GyaO」などは、ブロードバンド環境でこそ実現したものです。利用者から料金を徴収するのではなく、広告クライアントから収益を得ています。まったく異なるビジネスモデルが成立しているのです。
こういった動きは、NGNが本格化するにつれ飛躍的に拡大するでしょう。付加価値サービスが競争の軸になったとき、サービスプロバイダー同士はコンペティターでなくなり、「通信業界」そのものの位置づけすら、変わるかもしれませんね。
NGNというインフラの整備と、新しい需要の創出。ニワトリが先かタマゴが先かという議論も依然としてありますが。
まず、インフラの整備が必要です。競争環境が成立する前提だからです。この競争軸のなかで、イネーブラをいかに活かすか、皆が知恵を絞ってきます。
日本のブロードバンドがここまで発展したのも、e-Japan計画によりインフラ構築を先行させたお陰です。一方、米国では競争がなく、普及が進みませんでした。ようやく都市部のケーブルテレビと重なる地域で、動きが見られるくらいです。
ですから、NGN議論についても、まずインフラ構築に注力すべきです。次の段階で、イネーブラを活用したまったく新しい形のモデルやサービスが登場してくるでしょう。
(聞き手:吉沢一弘)