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インタビュー

網中心から顧客中心のOSSへ
計測/テストの技術を動員

 

 

ナヴィーン・バート博士

米アジレント・テクノロジー アジア太平洋地域責任者
Naveen  Bhat

 
世界最大の電子計測機メーカー、米アジレント・テクノロジーの「Agilent OSS」は、通信事業者のネットワークセンターとOSSを「ネットワーク中心から顧客中心へ」と変えるという。TMForumのメンバーでもある同社のナヴィーン・バート博士に、コンセプトと具体的な機能を聞いた。

 

今日はアジレントが提唱する「ネットワークセントリック(網中心)からカスタマセントリック(顧客中心)へ」の転換をテーマに話を聞く。まず、従来の一般的なOSS(Operation Support Systems)の役割と機能構成を、博士はどう見ているか。

 OSSの直接の役割は網の監視・管理であり、大きく5つの機能から成る。
@アラーム監視などの「フォールト管理」
A網の構成やプロビジョニングを扱う「コンフィグレーション管理」
B機器のポートや帯域幅を扱う「アカウント管理」
C「パフォーマンス管理」
D「セキュリティ管理」である。
それぞれの頭文字をとって「FCAPS(エフキャップス)」と総称される。このうち@AとCがOSSの中でも特に重要であり、BとDは機器ベンダーが提供するEMS(Element Management System)に依存する。

 
EMSや所謂NMS(Network Management System)は、OSSの外部サブシステムに位置づけられるのか。

 いや、OSSの一部だ。同一ベンダーの製品であっても、ルーターやスイッチ1台1台にEMSが載り、これが最終的にFCAPSを実行する。@〜Dの各OSSアプリケーションは、各々の管理情報をEMSから集約して一元的に表示する。

 
その集約の範囲が、従来はネットワーク単位に分かれていたということか。

 そこは階層化され、すでに解決されている。PSTNやGPRS、長距離中継網、地域網など、各々のFCAPSと、それらを統合したFCAPSの視点が構築されている。EMSレイヤを含む全体がOSSである。

 
それが「ネットワークセントリック」のOSSということか。

 そのとおりだ。

 

OSSに顧客視点を加える

では、「カスタマセントリック」への転換によって、OSSの役割や機能構成はどう変わるのか。FCAPSという枠組み自体が変わるのか。

 いや、従来の役割や機能構成は変わらず、その上に新たな役割や機能が「追加」されると考えるべきだ。各種の網があり、リンクやトランクや帯域があるという構造は変わらないからだ。カスタマセントリックはネットワークセントリックの上で実現される。後者は前者にとって必要不可欠であり、なくなるものではない。

 
カスタマセントリックなOSSでは、具体的に何が実現されるのか。

 例えば、従来のネットワークセンター(NOC)では、障害の発生箇所をリアルタイムに把握できていた。だが、その障害によって、どのエリアのどの顧客に、どういった影響が出るのかは分からなかった。電話中の顧客にとっては「どのノードが落ちているか」を知らされても何の意味もない。
 カスタマセントリックなOSSが実現すれば、A銀行やB証券といった特定顧客の、メールや音声通話やVODといった特定のサービスが、どんな影響を受けるのかが瞬時に可視化される。
 どこのNOCにも巨大なコンソール画面があるが、そのビューが変わる。従来のネットワークマップに代わって、主要顧客のアイコンが一覧表示される。赤信号でアラーム表示されている顧客をクリックすると、その顧客の利用サービスのステータスが一覧表示される。アラームを発しているサービスをさらにクリックすると、ネットワークマップのビューに切り替わり、そこからノード障害を追跡していく。カスタマビューがネットワークビューの上に被さっている形だ。

 
NOCの役割自体が変わるということか。

 そう、「カスタマセンターになるのだ」とも言える。


「ネットワークセントリック」画面




「カスタマセントリック」画面

 

「顧客の経験」を再現する

その際、「カスタマエクスペリエンス(顧客経験価値)が最も重要なビジネス管理目標になる」とアジレントは断言しているが、どういう意味か。

 経験は知覚が成り立たせている。もし人間が五感の1つでも失ったら、全くの別世界に立たされる。ネットワークセントリックな機器監視だけでは、たった1つの感覚器しか持たないのと同じだ。
 例えば、何回電話してもかからないとしよう。これはノード障害が原因とは限らない。単に圏外にいるだけかもしれない。コンソール画面がオールグリーンでも、クレームが入るわけだ。顧客との関係強化を求める事業者は、つながらない理由すべてを把握したいはずだ。当社が提供する多種のプローブシステムを使えば、そうした原因を把握できる。

 
プロトコルの追跡や分析ですべて分かるのか。

 いや、別の方法も必要になる。そのために当社では、一例として「アクティブテスト」ツールを提供している。
 インターネット経由のダウンロードがうまくいかないとき、原因の多くはサーバー自体のダウンや負荷集中にあるが、これは通信プロトコルを見ても分からない。それを発見するために、ネットワークの外に小型のエージェントロボットを置き、ユーザーに代わってダウンロードやサーバーアクセス等々を一定の間隔で自動実行する。
 顧客の立場と同じ経験は、プローブ情報の分析、アクティブテスト、EMSによるノード監視などを複合的に実施して初めて可能となる。そこに多数の計測機器やテストツールを提供してきた当社のノウハウが活きる。

 
カスタマセントリックの理念は、世界の通信キャリアの間で、どの程度ポピュラーな共通認識になっているのか。

 革新的なリーディングオペレーターの間ではすでに常識になっているが、それ以外ではまだまだ目新しい考え方だろう。

 

リーディングオペレーターとは「ティアワン」の事業者を想定してよいか。

 必ずしもそうではない。ティアワンは事業規模を指すが、拡大・成長を続けているキャリアには関心を持たれない。中国やインドのように、これからネットワーク整備を進める国にも不要である。このソリューションを必要とし、あるいは使っているのは、チャーンの抑制を求める成熟市場の大規模事業者だ。

 

全体最適な情報システムを

これまでOSSは自動化・省力化・コスト削減の場であり、顧客価値創造やバリューチェンジの場は、サービス・アプリケーションシステムやCRMにあると思っていた。NOCがカスタマセンターになるとすると、OSSとBSSの役割分担を含め、通信会社のシステムグランドデザインが変わるのではないか。

 OSSとBSSの境界は絶えず揺れ動いている。確かに、ネットワークセントリックなマネジメントは、コスト削減を目的としてきた。今後は課金情報やアカウント情報が不可欠になるため、OSSとBSSの結びつきは強くなっている。

 
博士はTMF(Tele Management Forum)に参画し、NGOSS(Next Generation Operations Systems and Services)やeTOM(enhanced Telecom Operation Map)の策定にも関与してきた。実際のところeTOMやNGOSSは、世界のキャリアにどの程度受容されているのか。

 採用して成果を出し始めた例はいくつもある。特にインドのように、ゼロから新規に組織やプロセスをデザインする場合には有効である。
 ただしeTOMとNGOSSは、別々に捉えるべきだ。NGOSSは「NGN向けのOSS仕様」と時々誤解されるが、そうではない。通信会社の情報システムの全体像について、ライフサイクルとメソドロジーを定義したものだ。特にハード/ソフトベンダーやSIとのコラボレーションモデルを示した点に、大きな意義があると私は考えている。
 一方eTOMは、主にOSS/BSSを対象とし、中身はビジネスプロセスモデルと組織の定義、およびそれらの革新をナビゲートするフレームワークから成る。「eTOMを採用しているか」との問いに、事業者は一言では答えられない。非常に長期にわたり、段階的に取り組まれるものだからだ。

 
私見だが、eTOMはEA(Enterprise Architecture)のガイドラインやザックマン・フレームワークに似て見える。システム化のメソドロジーに、ビジネスプロセスの全体最適化や経営戦略、組織戦略、リスク管理等の視点を立体的に加えた点も共通している。eTOMを「通信キャリアのEA問題である」と捉えても間違いないか。

 間違いではない。eTOMはフルフィルメント、アシュアランス、ビリングで構成されるTOM(Telecom Operation Map)に、組織定義とプロセス革新を追加したものであり、OSS/BSSおよびそのソリューションと、ビジネスプロセスとを橋渡しする役目を担うからだ。

 
最後に日本の通信事業者にメッセージを。

 日本の事業者は3G技術や国際ローミング、新規参入や競争激化といった未経験の課題に直面している。その中で「カスタマセントリックなサービスの管理・保証」という考え方とソリューションは、必ずや顧客をつなぎ止め、収益改善に役立つだろう。


(聞き手:松本昭彦)

 

  

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