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インタビュー

ウルトラ3G導入は07年前後
IP化先行で差別化サービス

 

 

冲中秀夫

KDDI 執行役員 技術企画本部長 工学博士
Hideo Okinaka

 
KDDIは固定系・移動系を問わずシームレスな通信を可能とする「ウルトラ3G」構想を掲げている。技術企画本部の冲中秀夫本部長は、「オールIP化やサービスコントロールプレーンの構築を通じ、付加価値サービスを開発しやすい環境を整えることが、競争に勝ち抜くための必須条件」と語る。

 

急速に進展するIP化という流れが通信業界全体の変革を促しています。この情勢下で通信オペレーターの置かれた立場を教えて下さい。

 現在の状況を整理すると、4つのファクターが見えてきます。1点目は収益構造の変化です。われわれ通信事業者は、コネクションを提供することで顧客から代価を得るものです。しかし、この根源的なサービス自体の売上が減少しています。少なくとも先進国ではアカウント数が伸びていません。さらに、トラフィック総量が増える以上の勢いで単価が下落しており、収益を圧迫しています。
 通信事業は典型的な設備産業であり、コスト削減には自ずと限界があります。利益を得にくい構造となってしまうのです。しかし、利益が出ないから撤退するというわけにはいきません。通信は社会インフラですから。 

 
2点目のファクターはどのようなものですか。

 コネクションで利益があげられない構造であれば、何らかの付加価値をプラスするほかありません。しかし、交換機で構成されたレガシー網で、新たな付加価値サービスを作り込むには大変な労力を必要とします。これがIPベースならば、サーバー/クライアントモデルに近く、比較的開発が容易なのです。

 
顧客が求めるサービスを、顧客が求めるタイミングで提供できるわけですね。

 そうです。それこそが付加価値といえるでしょう。
 3点目はテクノロジの観点からの要請です。通信機器ベンダーは需要のなくなった回線交換ベースの機器にリソースを振り向けなくなっています。いずれ保有する機器のメンテナンスにも不備が出る事態が想定されます。そうなる前に、IPベースのシステムを導入する必要があるのです。
 広く電気電子産業全体から、通信事業者に対して「早くIP化してほしい」と背中を押されている状況といえます。 

 
4点目のファクターは。

 とはいっても、IPベースの手法が未完成だということです。技術面でも国際標準化の面でも、多数の課題を抱えている状況であり、「安心して渡れる橋」ではありません。ここでどうするかで、事業者ごとの戦略が分かれていると言えるでしょう。崖淵に留まるか、半歩踏み出すか。当社は後者の戦略を採ったわけです。

 
IP化には、コスト削減の側面と付加価値創出の側面があるわけですね。両者を比べたとき、どちらの比重が大きいですか。

 もちろん付加価値です。これこそ、競争の源泉ですから。コストメリットは各社共通ですから、他社がすぐには真似できない「差別化サービス」をどれだけ作ることができるかが、競争を決定付けることは間違いありません。

 

コアネットワークのIP化先行
多様なアクセスをシームレスに

2004年に表明したオールIP構想に続き、05年6月には「ウルトラ3G」構想を発表したKDDIは、業界の先端を走っている印象があります。

 われわれにとって、NGNとはウルトラ3Gを支えるためのコアネットワークなのです。まずウルトラ3Gというサービス提供プラットフォームがあり、それはNGN=IPバックボーンとサービスコントロールプレーンに多様なアクセス系を加えて構成されているのです。

 
このうち、コアネットワークについて、従来からの方針が変わってきたわけでしょうか。

 基本路線はまったく変わっていません。趨勢に合わせ、前倒しで計画を進めているところです。もともと固定系と移動系の双方をサポートするためのコントロールプレーンを再構築しようという考えです。それにはトランスポート層の部分をまずIP化する必要が出てきます。
 単にIPで接続するということでなく、QoS機能を追加して、回線交換と同等の品質を確保します。これは中継交換機をソフトスイッチに置き換えることで実現できます。
 当社の場合、中継系事業からスタートしたこともあり、加入者系ネットワークの比重は意外に小さいのです。小さいがゆえにIP化の見切りを付けやすく、他社に先行できた側面がありますね。これが、07年までに固定系ネットワークをオールIP化する計画の根底にあります。
 計画の発表から1年が経過し、コアネットワークのIP化に加えて、サービスのコントロールプレーンの整備にも迫られてきました。付加価値サービスが競争の源泉なのですから、ここでの優位性の実現が急務でした。

 
そこでコントロールプレーンに、IMS/MMDの採用を決めたわけですか。

 はい。もちろん、auサイドでは先行して導入に向けた検討を進めていましたが、周りを見渡したときに固定と移動に共通するコントロールプレーンはMMDしかないだろうと判断しました。

 
MMDの導入時期はいつ頃をみていますか。

 難しいところです。スモールスタートを前提に、07年ごろの導入を目標としています。MMDの場合、ネットワークだけでシステムが完結せず、端末のSIP対応も前提になりますから、オーバーレイ型の段階的な導入しか現実解はないでしょう。一部の先進的ユーザーからはじまり、徐々に浸透していくプロセスです。
 移動体系を見ると、ネットワークインフラのベースとなるのは、CDMA 2000 1xであり、近く導入するEV-DO Rev.Aなのです。例えば超広帯域や超低遅延といった特別な環境は、必要とするユーザーに合わせて別のインフラを提供する考えです。
 こうした環境は全国一律ではなく、ニーズに合わせた展開が想定されます。例えば、都心部で高速無線通信を提供したり、ルーラル地域でデジタルデバイド解消を目的とした新たな無線インフラを構築するといったイメージです。

 
ユーザーにとって、アクセス手段は問わないことになります。

 3G携帯電話でも、Wi-FiやWiMAXといったワイヤレスブロードバンドでも、ADSLやFTTHなど固定系でも、ユーザーはシームレスにアクセスできます。さらに、アプリケーションをハンドオーバーすることも、すでに研究所レベルでは実現しています。網側がユーザープロファイルを管理し、適宜最適な環境を提供する技術です。

 
まさにFMCの実現ですね。

 FMCの可能性は大きなものです。現在、固定系と移動系の音声通話を1つの端末で実現できる「ワンフォン」にのみ注目が集まっています。しかし、私個人はFMCで市場性があるのは、情報家電分野だと考えています。情報家電の操作やデータのやり取りは、リモート環境で行うことが多く、携帯電話をパーソナルポータルとして使うようになるでしょう。さらに、PLC(電力線通信)などの固定系との連携で、ユーザーにとって利用の幅が大きく広がることが考えられるからです。

 
IMS/MMDの導入により、アプリケーションのプラットフォームが整備されれば、さまざまなプレイヤーが参入し市場が拡大すると言われています。しかし、これはキャリアのポジションが低下することにつながることはありませんか。

 その点はまったく心配していません。MMD導入後でも、携帯端末やFTTHのホームゲートウェイといった環境を通じてサービスイネーブラを提供できるのは、通信事業者だからです。すでに携帯電話のWebで実現している収益モデルを援用することで、われわれキャリアも新たに参加するプレイヤーも、もちろんユーザーもハッピーなビジネスモデルが実現できるでしょう。


(聞き手:吉沢一弘)