NGN+S 2007 Autumn 講演抄録
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〜高まる新ビジネスへの期待感〜
山場を迎える メディア融合政策
中村 伊知哉氏
慶應義塾大学 デジタルメディア・コンテンツ統合研究機構(DMC)教授
国際IT財団 専務理事 |
メディア融合に向けた政策論議が本格化してきた。放送、通信関連法を情報通信法に一本化し、電波の用途規制を大幅に緩和するなどの改革が進められている。ユーザー主導でデジタルコミュニケーションが進展した日本は大きな潜在力を秘める。メディア融合施策の進展を機に日本が世界デジタル市場をリードできる可能性もある。
私は、94年頃に郵政省(現総務省)で初の通信放送融合問題担当となり、その後MIT、スタンフォード大学に在籍した時期を含め15年間にわたりこの問題にかかわってきました。
当時の政府は通信放送の融合は時期尚早という立場で、議論を解禁に持っていくまでに1年を費やしました。融合政策を明確に推進しようという姿勢が政府からでてきたのは12年後の05年頃です。政策が大きく動くにはこの位の時間が必要だったのです。
このメディア融合政策の本質は、通信ネットワークと放送コンテンツ・番組をどう結合させるかということであるわけですが、これは非常に日本的な問題でもあります。
ご存じの通り日本は光ファイバーの普及では世界でトップを走っており、携帯ネットも非常に普及しているネットワーク大国です。
コンテンツに占めるテレビの位置づけが非常に高いのも日本の特徴です。映像コンテンツ産業の中でテレビが占める比重は時間ベースで92%、金額でも57%をあります。しかもその9割以上の番組が1回オンエアしたら終わりというビジネスモデルでやっている。これを通信と結合させることで日本の国益を高められるのではないか、この議論の狙いなのです。
すなわち今日のテーマであるIPTVの姿をどう描くかというのがメディア融合政策の目指す1つの方向性であったわけで、これを早めに進めていれば日本は結構いいポジションを占めることができたのではないかと思います。
しかし対応は遅れたと思います。
06年1月にラスベガスで開かれたCESでYahoo!、Google、アップル、マイクロソフトがハリウッドのコンテンツを軸に世界的な映像配信ビジネスをやると宣言しました。これを機に米国でのメディア融合議論の主役は通信や放送の会社からIT企業に変わります。事実、3大ネットワークの1つCBSがベライゾン、コムキャスト、Google−−通信、CATV、Webの会社と提携するという動きがでてきています。通信・放送だけでなく新聞などを含めたメディアの再編も大きく動き出しています。こうしたドラスティックな動きに日本はついていけていません。
欧州でも、France 2がフランステレコムと第2ドイツテレビジョン協会(ZDF)がドイツテレコムと組んでIPTVを行っています。これはいわばNTTとNHKが包括提携を結んでIPTVを推進しているわけで、日本ではちょっと考えられない状況です。
これに対して日本はIPTV自体、また契約者数が40万、売り上げで100億円程度と伸び悩んでいます。これは欧州の事業者1社分程度に過ぎません。
IPTVの伸び悩む要因には端末の標準化や著作権など様々な課題があるといわれますが、私は最大の問題はIPTVをやろうとしている通信業界がどこまで本気でコンテンツ事業に乗り出そうとしているか。ビジネスの問題だとみています。08年はその「本気度」が試される勝負の年になるのではないでしょうか。
冒頭で申し上げたように2年程前からメディア融合に向けた議論が本格化してきました。契機になったのは竹中元総務大臣が設置した「通信放送のあり方に関する懇談会」です。その中で私が直接かかわっているものの1つが現在縦割り通信と放送の法体形を、コンテンツ、サービス、ネットワークというレイヤで整理し、情報通信法という1本の法律にしてしまおうという議論です。政府はこの議論がまとまれば、2010年の通常国会に法案を提出したいといっています。
狙いは「規制緩和」で、現在、放送や通信などの用途毎に割り当てられている電波を自由に使えるようにすることも議論されています。
こうした制度面での改革と並行して、国がコンテンツの取引市場をプロデュースするとか、地域限定で現在はできないような電波の使い方を認める「ユビキタス特区」などの「ソフトな行政施策」も動き出しました。
日本は女子高校生が普通に携帯電話で読み書きをしており、ブログによる情報発信が世界で最も進んでいるなど、ユーザー主導でデジタルコミュニケーションが発達した世界でも特異な国であり、極めて大きな潜在力を秘めています。メディア融合政策が進展すれば、日本が世界のデジタルマーケットをリードできる可能性が十分あると私は考えています。今年、議論は山場を迎えることになります。